interview:藤山和久(「建築知識」元編集長) photo:西山輝彦
「エアコンのいらない家」が公式にスタートする以前、すでに「エアコンのいらない家」を建てられていたご家族がいらっしゃいました。場所は山梨県の甲府盆地。
暑さ寒さが厳しい盆地という環境にありながら、ご主人は開口一番、「十分快適に暮らせています」とおっしゃいます。
その秘密はどこにあるのでしょうか。
梅雨に中休みとなった7月の日曜日。山梨県甲斐市の八巻邸でお話をうかがいました。
取材日:2014年7月6日
こんな間取りで大丈夫かな…
01
――
よろしくお願いします。
八巻
こちらこそ。
――
さて、さっそくですが、八巻さんのお宅について、いろいろおうかがいしたいと思います。まず教えていただきたいのは、なんといっても「エアコンのいらない家」を建てられた、その理由からです。
八巻
ええ。
――
八巻さんのお宅は、山田浩幸さんが『エアコンのいらない家』(2011年・エクスナレッジ刊)を執筆される以前に竣工していますので、その“先駆性”にとても興味があります。
どうして、「エアコンのいらない家」を建てようと思われたのですか?
八巻
私は全然そんな意識はなかったんです。
エアコンは、別にあってもなくてもよかった。結果的に「いらない家」になったというだけで。
――
そうなんですか。
八巻
では、そもそものいきさつからお話しましょうか。
――
ぜひ、お願いします。
八巻
私の実家は山梨県の北杜市というところで、標高が500mくらいの場所にあります。
夏は窓をあけっぱなしにしておけば、エアコンは全然必要ないような環境です。
――
いいところですね。
八巻
そんな家で育ったせいか、「家にはエアコンが付いていなければ絶対に困る」とは思わないんです。
かといって、「エアコンなんて絶対に付けたくない」とも思わない。
あえていえば、自分がこれから建てる家には「普通に」エアコンが付くのだろう、くらいのイメージしかもっていませんでした。
――
なるほど。
そんな八巻さんが、どうして急旋回を?
八巻
家を建てようと決意して最初にしたことは、おそらくほかの方もそうでしょうが、
近くの住宅展示場に行ってパンフレットをもらい、そこに載っている間取りの例を見ながら、「うちの間取りはどうしようかな?」とイメージをふくらませることでした。
――
はい。
そういう方は多いと思います。
八巻
ただ、そんなことをしている最中に、ふと思い出したんです。
「そういえば大学時代の友人に、住宅の設計を仕事にしているヤツがいたじゃないか」って。
――
ほう。
八巻
で、さっそく彼(株式会社ミサワホーム総合研究所・舘野一幸氏)に電話をしたら、すぐに飛んできてくれました。
彼が「どういう家にしたいの?」と聞くので、私たちの要望をあれこれ話したら、よし分かったといって、後日その要望を図面にまとめて持って来てくれたんです。
――
なんともスピーディーな。
八巻
私は住宅の設計は素人ですが、素人は素人なりにハウスメーカーの間取りを見ながら思い描いたわが家の間取りが、なんとなく頭にありました。
でも、彼が持って来てくれた図面を見ると、それはもう、私のイメージとはまったくかけ離れた間取りだったんです。
――
どれくらいかけ離れていました?
八巻
こんな間取りで大丈夫かと不安になるくらい。
――
(笑)
八巻
それくらい個性的な間取りに見えました。
とはいえ、彼の提案を断って、あらためて住宅展示場巡りをするのも面倒だなと思い、エイヤッで彼の提案に乗ることにしたんです。
――
なるほど。
たしかに、完成したお宅はハウスメーカーの標準的な間取りとはちょっと雰囲気が異なりますが、だからといって住みづらそうな家というわけでもないですね。
押さえるべきところはきちんと押さえてある印象です。
(つづく)