(2017-6-12)
(2017-6-13)
(2017-6-14)
2016年11月に開催された「エアコンのいらない家・千葉N邸」のオープンハウスの模様をお送りいたします。意匠設計を担当した小沢桃子が設計のねらいと、この家ならではの見所を語りました。(2016年11月27日)
構成:西田結花(ライター)
The first floor - 1
風を通すためのグローエ 篇
小沢
この家の意匠設計を担当いたしました小沢です。よろしくお願いします。
きょうはオープンハウスということですので、この家の設計についてさまざまな角度からざっくばらんにお話していきたいと思います。まずは、この家とエアコンのいらない家との関係についてお話しておきます。
そもそもこの家は、お施主さんと私が知り合いで、奥様からご自宅の設計をご依頼いただいたのがすべての始まりでした。当初は、「エアコンのいらない家」というコンセプトありきで計画が進んでいたわけではありません。
建築家に設計を依頼する気もなかったそうで、お施主さんはごくごく「普通の家」を望んでおられました。週末に住宅展示場を巡っては、ハウスメーカー、工務店各社からたくさんの提案をいただいたそうです。私はそれらの提案に、友人として突っ込みを入れるという「セカンドオピニオン」の役をしていました。
ただ、どの提案にも一長一短があったんです。
デザインはとても良いのだけれど、性能について質問すると担当者がはっきり答えてくれない、とか。エコを前面に押し出したハウスメーカーのデザインは軒並みひどかった、とか。工務店は間取りが平凡すぎてつまらない、とか。
そういうジレンマに陥るなか、もしかしたらお施主さんが本当に望まれている住まいの方向性にいちばん近いのは「エアコンのいらない家」ではないかと気づき、私から設備設計者の山田さんにご協力を呼びかけたという次第です。
エアコンのいらない家の仕組みについては、すでにいろいろなところで紹介されていますので、きょうはこの家がどういうかたちでエアコンのいらない家になっているのか、そのあたりを中心にお話していこうと思います。
土間玄関の小さな「囲まれ感」
小沢
1階の平面図はごらんのとおりです。
敷地も同じように南北に長い形状で、南側が道路に面しています。いわゆる都市部の典型的な住宅地といえるでしょう。
エアコンのいらない家のセオリーどおり、まずは冬の日差しをたくさん取り込めるように南面に大きな開口部を設けています。とはいえ目の前が道路ですので、1階の窓はある程度サイズを抑えました。
一方、2階の窓は大きく取っています。
敷地が準防火地域なので、お施主さんが要望された木製サッシでは窓のサイズに制限があるんです。その制限のなかで最大のサイズを求めるとこうなったわけです。
日差しがたくさん入りますので、ここは主に洗濯物の室内干しスペースになる予定です。
玄関は南面の真ん中に設けました。
同時に、南面全体を「縁側空間」として日差しを取り込むための場所と位置づけています。
物理的には「室内」ですが、感覚的には「半屋外」のイメージです。それを強調するために、床にはタイルを張って土間のような雰囲気にしました。いわゆる「土間玄関」ですね。
奥行きは910㎜しかありませんが、西側の壁が少し出張っているので、コーナーにちょっとした「たまり」が出来ます。狭いといえば狭いのですが、それが逆にちょっとした「囲まれ感」を演出して、なんとも言えぬ落ち着いたスペースになるのではないかと期待しています。
内側の障子を閉めると、土間玄関とリビングダイニングは完全に分離できます。冬はこの障子を閉めることで室内の暖かい空気が外部に逃げるのを防ぎます。また、窓の外からの視線をカットすることもできます。いまは11月ですが、お施主さんには冬季は夕方を過ぎたらこの障子は閉めてもらうようにお願いしています。
逆に夏は、この障子が日射遮蔽の役割をにないます。
欲を言えば、土間の奥行きはあと455㎜ほしかったところですが、ほかの部屋との兼ね合いもありこの寸法に落ち着きました。今後このスペースがどのように使われていくか、いまからとても楽しみにしています。
北の窓から風を抜くために
小沢
次に夏の過ごし方ですが、日射をできるだけ抑えつつ南から北へ風を抜いていくために、家中の引戸は全部開けて過ごすことを基本にしています。
ただし、間取りを見れば一目瞭然ですが、玄関からリビングダイニングを通って洗面・脱衣室までが物理的に一直線につながります。そのため、すべての引戸を開けていると来客が玄関ドアを開いた瞬間、家の中が北側までほぼすべて見渡せてしまいます。
洗面・脱衣室というのは外部の人にあまり見せたいものではありません。かといって、洗面・脱衣室の引戸を閉めてしまうと北側の窓から風が抜けていきません。
北側の風抜き窓は洗面・脱衣室の上にある高窓です。この窓から光を入れ、風を抜いていきます。
そこで、洗面・脱衣室の引戸を常時開けていても心理的な抵抗がないように、ここは最初から「見せる洗面・脱衣室」として計画しました。
具体的には、洗面器や水栓がこの家のアクセサリーとなるように、機能性はもちろんのこと「見せる」という要素からも満足できる製品を選んでいます。洗面器はイタリアのカタラーノ、水栓はドイツのグローエというメーカーのものです(洗面の鏡はまだ付いていません)。
日常的に目に入るものを愛着の持てるものにしておくというのは、住まいのプロダクトを選ぶうえで非常に大切な視点でしょう。この家のように「見せる〇〇」という理由がなかったとしても大事なことだと思います。
ちなみに、洗面器の上の高窓は、夏は開ける・冬は閉めるという想定でしたが、きょう(11月)、この窓を開けていても家全体が十分暖かいので、換気という意味でも少し開けておくくらいでいいかなという気がしています。
(つづく)2017-6-13