The second floor
甦る おばあちゃん家の障子 篇

昔の家の記憶を引き継ぐ
小沢
2階に上がってきました。
ここは南側で、ちょうど玄関の真上に当たります。

床はスノコ状にしています。
エアコンのいらない家の仕組みでいえば、ここが1階から2階への風の通り道の一つになります(もう一つは階段です)。
敷地が広ければ吹抜けを設けるのが定石でしょうが、ここは十分な吹抜けを設けるスペースがなかったので、床面を確保しつつ風も通すという折衷案を考えた結果、スノコ床となりました。
お施主さんの要望に「リビングと子供部屋は隣同士にしたい」というものがありまして、それをかなえるために上下で部屋が隣接するように床に孔をあけたという意味もあります。下から「ごはんよー」と叫べば上まで聞こえます。


このスノコ床の空間は洗濯物干し場や奥様のユーティリティースペースになる予定です。夏場であれば東西と南の窓をあけて風を通せば、洗濯物の乾きもものすごくよいでしょう。
いまは私も浴室乾燥機を使うようになりましたが、住まいにおける「風の力」はあらためて見直す必要があるかもしれないと、今回設計をしながら感じた次第です。


この隣は子供部屋ですが、部屋干しの湿気やにおいが子供部屋に入ってくるのがイヤなら、障子を全部閉めればこのゾーンだけで空間が完結します。
いまは、新築の家に障子を入れることは少なくなりました。
でも、こうやって昔ながらの組子の障子を入れてみると、「やっぱり障子っていいな」と思います。
しかもこの障子は、奥様のおばあさんの家で長年使われていた障子です。それを修復してこの家に組み込みました。きょう見学にいらっしゃった方々も、口々に「この障子がすごくいいわね」とおっしゃっていたので、障子に魅力を感じる方はたくさんいらっしゃるのだろうと思います。
いま、これと同じ障子をつくろうとするとそれなりにコストがかかります。でも、昔から使われていたものを再利用するのであればお金はそれほどかかりません。なにより「家の記憶をつなぐ」という意味ではこれ以上うってつけのアイテムはないと思います。

暖かい空気を最頂部に集めるために
小沢
子供部屋の上にあいているあの孔は、冬の暖かい空気を2階の上部でスムーズに流通させるためのものです。夏は暑い熱気がこの孔を通って一番高い場所にあるロフトの窓から抜けていきます。


なお、東西面からの通風という意味では、階段の途中に設けた縦長の窓が「ウィンドキャッチャー」としての役割を果たします。

そのほか、空気を動かすという意味では階段上のシーリングファンもその役割を果たします。
冬はあのファンの周りに溜まった暖かい空気が、ファンを回すことで下へ吹き降ろされます。
逆に夏は、熱気を吸い上げてそばにある窓から排出してくれます。
熱の循環はサーキュレーションシステムでも行いますが、このシーリングファンと2本立てで行うことで、家中の空気がさらにかき混ぜられてより均一化します。もちろん、インテリアとしてもシーリングファンはききますね。
これはお施主さんの要望でもありました。

1階の説明はひとまずこんなところです。
次は2階に移りましょう。
(つづく)


ちなみに、窓のそばにある四角いものは最頂部に溜まった熱を排出してくれる換気扇です。夏は設定温度になると自動的に動き出して熱気を外部に逃がします。

あと、2階の部屋について説明すると、子供部屋からウォークインクローゼットを挟んだ北側が主寝室になります。
北側の寝室ってなんとなく寒そうなイメージがありますよね? 実際にはどうでしょうか。
ちょっと温度を測ってみましょう。


2階北側寝室の床の表面温度は、いま18℃です。
……天井も同じく18℃ですね。



反対に、南側のスノコ床の表面温度はどうでしょうか。
……こちらも同じく18℃です。
子供部屋の天井も18℃ですね。


1階はどうでしょうか。
階段を降りて1階リビングの床を測ってみます。
……20℃でした。

いま、この家は放射冷暖房機をごくごく低い温度で回しています。
まだここで実際の生活は始まっていませんから、子供たちがあちこち動き回ったり、キッチンを使い始めたりすると、室温はもう少し上がるだろうと思います。
そのうえで、冬の室温が何度くらいになるか。そのあたりは何カ月か後にお施主さんにうかがってみるつもりです。
そんなわけで、そろそろこの家の説明を終わりたいと思いますが、ごらんいただいてお分かりのとおり、延床面積でいえばそれほど広いお宅ではありません。
でも、エアコンのいらない家に必要な仕掛けは過不足なく取り入れられていると思いますし、日常生活に必要な収納や設備も必要十分だと思います。
そういう意味では、自然の力をうまく利用して暮らすための要素がぎゅっと凝縮された家といえるかもしれません。
まあ、実際に暮らし始めると、設計者の思惑どおりにはいかなかった部分、逆に予想以上にうまくいった部分が出てくるだろうと思います。
そのあたりがどうなるか?
設計担当としては楽しみでもあり怖いところでもありますが、その答えは夏・冬を身をもって体感されたお施主さんに、あらためて根ほり葉ほりうかがってみたいと思っています。
本日はお忙しいところありがとうございました。
(おわり)