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10年後なら、100万円
――
建て主さんが気になることといえば、そのほかにも、家を建てた後の「保証」があるように思います。
何かあったとき、どこまで面倒を見てくれるのか。
家づくりにともなう保証について、ご説明いただけますか?
大原
いまは、瑕疵担保責任が法律で義務付けられていますので、すべての工務店はその保険に入らなければなりません。
当社はハウスプラスという保証会社に登録しています。
この保険により、漏水や構造に関する瑕疵があれば、新築から10年間は保険金が支払われて修繕ができる仕組みになっています。
仮に当社が倒産するなどしても、ハウスプラスがほかの工務店を探してきて修繕をさせます。
そういうシステムが法律的に出来上がっているということを、建て主さんにはまずご説明しています。
――
そのほかにもありますか?
大原
あとは、設備機器や仕上げ材ごとに1年保証、3年保証など個別の保証があります。
ただ、そういう説明は質問されればお答えいたしますが、質問がなければあえていたしません。
というのも、当社の場合、たとえば3年なら3年で線を引いて、「はい、ここを過ぎたら保証はおしまいです。面倒は見ません」というやり方をしないからです。
何か不具合があってご連絡をいただいたら、お宅にうかがってしっかり調べます。
調べた結果、修理はするものの特に請求はいたしませんという場合もあれば、これくらいの金額で修理させていただきますという場合もあります。
その場、その場で最適な判断を下しながら対応していくのが、当社の「保証」といえるかもしれません。
――
機械的な保証ではないということですね。
大原
昔から、ずっとそういうやり方をしてきました。
瑕疵担保責任の法律ができたからといって、やっていることは昔からずっと変わらないのです。
家というのは、出来上がったときから建て主さんと工務店の新たなお付き合いが始まります。
何かあればご連絡ください、しっかり見ていきますよ、ということですね。
まあ、私もいい年ですから、いつまで動けるか分かりません。
何かあれば、いまは専務の菊池という者がおりますので、若い菊池が引き継いでやりますというふうに最近はお話しています。
――
住宅に大小さまざまな不具合が出始めるのは、現実には瑕疵担保責任保険の期間が終了した11年目以降でしょうから、年数で区切って、保証する/しないみたいな考え方は逆に不自由かもしれません。
新築のときからずっと見てもらっている大原さんのような方に相談したほうが、建て主さんとしても安心できますよね。
担当者がころころ変わるハウスメーカーより、安心かもしれません。
いわゆる「定期点検」みたいなものは、どうされていますか?
大原
新築から1年後は、必ず点検をします。
春夏秋冬、1シーズンが終わるといろんなことが分かりますからね。
次にやるとすれば、3年後の点検をやるかやらないか。
これは設計を担当した設計事務所の考えもありますから、その事務所がやるということであれば一緒にやります。
さっき申し上げたとおり、機械的な対応をしているわけではないので、点検も本当に臨機応変です。
「ちょっと近くまで来たものですから」と、突然おじゃますることもありますし。
一度建てた家は、常に気にしていますよ。
――
最近は長期保証を売りにしているハウスメーカーもたくさんありますが、やっていることは結局大原さんと同じですね。
いったん建てた家はずっと面倒を見ていきますという、ある意味では当たり前のことです。
住宅の傷みやすいところはどこですか?
――
これまで、さまざまな住宅の「その後」を見てこられたと思いますが、家のなかでいちばん傷みやすい部分といえば、どこでしょうか?
大原
やはり、水に関わる部分でしょう。
どのような材料も水に濡れると一気に傷みますから。
――
人間も水に濡れれば風邪をひきます。
大原
ええ。
ひどいときは、新築後5年で信じられないほど激しく傷んでいる場合があります。
ちょうど今、そういう現場の改修工事が始まったばかりなんです。
当社で施工した住宅ではありませんが、漏水が見つかった住宅で、先日瑕疵担保保険が適用されました。
――
どの部分の漏水ですか?
大原
外壁のサッシ廻りから雨水が浸入して、基礎の立ち上がりと土台の隙間から水が入りました。
1階の床下に水が溜まってしまったんです。
しかも運が悪いことに、その家は1階の床の高さがGL(地面の高さ)より下がっていたので、床下がすごい状態になっていました。
原因を調べると、「こんな設計では水が入るのは当たり前だろう」という問題の多い納まりでした。
わりと有名な設計事務所の仕事なのですが……。
正直言って、どうやって工事をするのがベストか、まだちょっと悩んでいるところです。
――
もともとの図面に問題があったのでしょうか?
大原
でしょうね。
もし私がその設計事務所の工事を請け負っていたら、「この設計はまずいでしょ」と指摘したはずですが、実際に担当した工務店は、立場上そこまで言えなかったのかもしれません。
設計側から、「こうしたいんだ!」と言われれば、「分かりました」でやるしかない場合もあります。
で、
「やりました」
「漏りました」
「さて、どうしましょう」という展開です(笑)。
――
施工側が図面の甘さを読み切れなかった?
大原
いや、おそらく分かっていたんじゃないかな。
それを指摘できなかっただけではないかと思いますけど。
――
設計の不備を分かっていてそのまま施工したというのは、それはそれで罪深いような。
大原
そうかもしれません。
でも、その工務店はすでに廃業しているので、いまさらあれこれ言っても仕方がありません。
それ以上にどうかと思うのは、漏水が発生した住宅を施工した工務店がまだ存在しているのに、その会社は修理に行かなくて、当社にお呼びがかかるというケースです。
最近はそういう仕事も増えてきました。
――
欠陥住宅の駆け込み寺みたいな。
大原
同じ工務店に修理させてもうまくいかないだろうから、きちんと施工ができるほかの工務店に相談するしかないということで、うちに話がくるみたいです。
メンテナンス費用はいくらですか?
――
さて、どんなに丈夫に建てられた住宅でも、年数を経れば、何かしら不具合が出てくるものです。
建て主さんのなかには、将来に備えて今から修繕費を確保しておこうと考える人もいらっしゃると思うのですが、では、何にどれくらいお金がかかるのか……これがよく分かりません。
大原さんの経験で、だいたいこれくらいの費用がかかりますよ、という目安があれば教えていただけますか?
大原
マンションを買うと、修繕積立金というものを取られますよね。
戸建住宅にそういう制度はありませんが、おっしゃるように、近い将来、必ず修繕が必要になります。
そこで最近は建て主さんへの説明で、10年、15年、20年経つと、住宅には修繕なり補強が必要になりますから、旦那さんの毎月の飲み代を削ってでも、少しずつお金を貯めておいてくださいとお伝えしています。
――
ええ。
大原
「では、メンテナンスのスケジュールを出してもらえますか?」と言われることがあるのですが、これはなかなか難しい。
10年後に必ず外壁を直さなければならない、というわけでもないので一概には言えません。
スケジュールは一応書いてお渡ししますが、そのとおりに進むケースのほうがむしろ少ないかもしれません。
――
ざっくりと、「何年後にいくらの修繕費が確保されていれば安心」みたいな金額は出せますか?
大原
それは最初の工事費に関係するかな……。
――
たとえば、本体工事費3,000万円でつくられた家があるとして、10年後の修繕費は……。
大原
100万円くらいでしょうか。
で、20年後は200万円くらい。
――
30年後なら300万?
大原
ま、大雑把ですけど。
――
でも、分かりやすいです。
一般の人は大雑把な目安すら分かりませんから、いい参考になると思います。
(つづく)2016-7-9