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ハウスメーカーの建築現場が排除したもの
――
いま、建て主に対する「説明」の話が出ましたが、家づくりに際しては、建て主の側にはいろいろ聞いておきたいことがあると思います。
普段、建て主さんとはどんな話をされていますか?
大原
まずは、当社がどんな会社かの説明ですね。
そこがいちばん気になるはずですので。
ただ、当社の場合、設計事務所さんからの紹介がほとんどですので、「設計の先生が良いといわれる工務店ならそれでいいですよ」と言われるのがほとんどです。すでに信頼感が醸成されているので、話もしやすいですね。
――
ひとくちに「工務店」といっても、一般の人は工務店が設計も施工もすべて行っているパターンと、施工しか行わないパターンの2種類があることを、ご存じないでしょう?
大原
そうですね。
1つの会社に依頼すれば設計も施工もワンストップでやってくれると思っている方、設計者と施工者が分かれている意味を理解されている方、いろいろいらっしゃいます。
――
そのほかにはどのような説明を?
大原
いちばんお話する内容が多いのは工事契約の前です。
工期はこれくらい、工事の内容にはこんなことが含まれています、とか。
あと、建て主さんには現場の途中経過を見てもらい、そこでこんなことを打ち合わせしましょうと、事前に提案しています。
そんなふうにいろいろ説明していくと、建て主さんの不安もだんだん氷解していくようです。
――
たしかに、家づくりにともなう感情で、いちばん大きなものは「不安」かもしれません。
「楽しい」とか「ワクワク」以上に、まず「不安」。
大原
大きな買い物ですから、詳しい説明がなければ当然不安に襲われますよね。
そういう意味では、ハウスメーカーはそのあたりの割り切りがスゴイでしょう?
まだちゃんと説明もしていないうちから、「とにかく契約しましょう」と判子を押させようとする(笑)。
――
「ま、詳しい話は契約のあとで」って(笑)。
でも、本当にそういう話をよく聞きます。
ハウスメーカーで家を建てた人にうかがうと、誰に聞いても必ず「ものすごいスピードで進んだ」という感想が出てきますから。
ハウスメーカーと工務店、違いは何?
大原
ハウスメーカーは契約の流れから工事の進め方まで、各社さんそれぞれのノウハウがあって、われわれのやり方とはちょっと違います。
いちばん大きいのは、いま話に出た「なにはなくとも契約」かな。これが営業の方針ですね。
少しでも早く仕事を取りたい、と。
契約をして仕事を取れれば、あとは会社としてきちんと利益を出せるように仕事を流していく。
あくまで、商売ベースの進め方ですね。
逆に設計事務所の場合は、建て主さんが要望している住まいを具体的な絵にして、コストも予算内に収めるように、あれこれ努力していくやり方です。
当然、時間も労力もかかります。
――
しかも、設計事務所は「商売ベース」という意識が希薄だから、気づいたら赤字になっていたということもしばしばでしょう。
大原
それはありますね。
――
一方、現場のほうはいかがですか?
ハウスメーカーの現場と大原さんのような工務店の現場。どのような違いがあるでしょうか?
大原
これも全然違いますね。
ハウスメーカーで働く職人というのは、基本的に「完全分業制」です。
たとえば、基礎工事を担当する職人なら、とにかく目の前の基礎工事のことだけを考えていればいい。
次の工程で作業する職人のことなど、一切考えていません。ちょっと気を使って作業すれば、次に作業する職人がラクに仕事できるのに、それすらやらない。
分かっていてもやりません。
――
それは、「システムとしてやらない」という意味ですか?
大原
結果的にそうでしょうね。
ハウスメーカーに下請け、孫請けで入る職人にとって、大切なのは自分たちに与えられた仕事を、決められた賃金のなかでいかに効率よくやるかです。
安い材料を使って手離れよくこなしていけば、それだけ利益も大きくなります。
もちろん、それを否定するつもりはありません、商売ですから。
ただ、建物全体のことを考えると、先に作業をしている職人が1日だけ仕事を止めて、あとから入る職人が作業できる時間をつくってあげられれば、次の工程で二度手間がなくなるとか、建物全体の仕上がりがよくなるとか、トータルでのメリットが大きくなります。
基礎工事を担当する職人が、次の工程に入る大工さんや設備屋さんのことを考えながら仕事をしてくれれば、その住宅にかかわる職人すべてに利益がもたらされる。
それがひいては、建て主さんの利益にもなります。
そのように、職人全員のチームワークで仕事を進めていくのが、われわれ工務店のやり方です。
対するハウスメーカーは、業種別・職人別に個々の成果を積み重ねていくというやり方ですね。
おそらくそこには、チームワークという発想はないでしょう。
――
建売住宅の現場なら、そのあたりの割り切りはもっとシビアでしょう。
大原
でしょうね。
ただ、ハウスメーカーや建売住宅のビルダーは、そのシステムのなかに会社側の「施工管理」という管理体制をしっかり入れています。
これにより、職人どうしのチームワークがなくても建物全体のクオリティは保てるという考え方です。
基礎工事一つとっても彼らなりの基準があって、担当の職人がチェック項目を1つでも満たしていなければ、即やり直しを命じられます。
そのようなシステムで動いている以上、職人が目の前の仕事のことだけしか考えられないのは、当然といえば当然ですね。
ほかの工程、ほかの業種のことまで考えて、自分の仕事がおろそかになっては、それこそ本末転倒ですから。
ただ、大きなオフィスビルをつくるのならいざ知らず、個人の住宅をつくる現場で、それを「プロの仕事」と呼んでいいかは、個人的には疑問が残ります。
ちょっとドライ過ぎるような気がするんです。
――
かつて、サッカー選手の役割分担として、エースストライカーは点を取るのが仕事だから、守備は適当にやっていればいいという考え方がありましたが、いまの話をうかがってそれを思い出しました。
たしかにそれでストライカーは1点取れるかもしれない。けれど、チームは2点取られて試合に負けるかもしれない。
大切なのはどっちだという話ですね。
言い換えれば、「職人は誰の顔を見て仕事をしているのか」ということでしょう。
建て主の顔を見ているのか、施工管理をする元請け会社の顔を見ているのか。
(つづく)2016-7-8