地熱(井戸水)利用で夏も冬も快適に
設計時、お施主さんからは以下のようなご要望をいただきました。
「このあたりは湧き水が多い地域なので、敷地内に井戸を掘って日常的に井戸水を利用したいと思っています。年間を通して水温が変わらない井戸水を使うことで、夏は涼しく冬は暖かい快適な住宅ができないでしょうか?」
そんなわけで、地下を10メートルほど掘削すると、毎分30リットル、水温15℃の地下水が自噴してきました。そこで、この地下水を建物南側の水盤に貯水し、残りは容量5トンの地下水槽へ貯め込む計画を考えました。
これにより……。
夏季は、水盤上空を通過する南風が水盤に張られた水の気化熱によって冷やされ、建物南側の縁側へ涼風を導いてくれます。
また地下水は、縁側と居間の間に設置した冷却用放熱パネル(ピーエス工業のHR-C)にも使用しました。室内の各室を隔てる間仕切りをすべてあけ放ち、北側最頂部の窓をあけてやると、水盤と冷却用放熱パネルによって冷やされた涼風が、室内の隅々に涼しさを届けながら通り抜け、最後は北側最頂部の窓から外部へ抜けていきます。
冷却用放熱パネルに使用した地下水は、その後屋根面の散水にも使用しています。夏季の直射日光で温度が上昇した屋根材表面を、この散水により冷却することで室温の上昇を抑えようという試みです。屋根散水に使用した水は、そのまま水盤へ落ちていきます。
室内に入り込む夏場の日差しは、縁側の軒先にすだれを掛けて遮光。
竣工後8年が経過しましたが、「念のために」と設置したエアコンは猛暑日でもほとんど使用したことがないそうです。
冬季は、屋根裏空間全体を大きな集熱チャンバーとして利用しています。冬でも日差しの強い日は、集熱チャンバーに暖気を溜めこみ、集熱ファンとダクトにより1階床下空間へ送風。1階に送られた暖気は、北側リビングの窓際から吹き出して足元の冷えを解消します。
冬の日差しを効率よく集熱するため、屋根形状は南傾斜の片流れとしました。(山田)
■建物概要
場所:滋賀県
家族構成:夫婦
協働設計:ケミカルデザイン(奥村俊慈)、ymo(山田浩幸)、Arup Japan
施工:大宝柊木/蒲生工務店
敷地面積:666.49㎡(201坪)
建築面積:228.09㎡(69坪)
延床面積:313.79㎡(95坪)
構造:鉄骨造
写真協力:ケミカルデザイン
■受賞歴
第10回JIA環境建築賞 住宅部門入賞